かゆみはストレスのせい?~蕁麻疹やアトピーとの関係と対処法を解説~

監修者:シンクヘルスクリニック院長 産婦人科専門医 大村 美穂
目次
1 ストレスでかゆみが起きる?
1.1掻くとさらにかゆくなる
1.2ストレスで悪化する
1.3夜にかゆくなる
2 ストレスとの関係が深い肌トラブル
2.1蕁麻疹(じんましん)
2.2アトピー性皮膚炎
2.3皮膚搔痒症(ひふそうようしょう)
3ストレスによるかゆみの対処法
3.1保湿に気を配る
3.2ストレスをコントロールする
3.3かゆみを紛らわせる
3.4バランスのよい食事を摂る
3.5睡眠の質を高める
3.6病院で薬をもらう
4まとめ
かゆみは生活への影響が大きく、我慢するのも辛いものですよね。かゆみの原因はさまざまですが、ストレスによってかゆみが悪化する場合があります。少しでもかゆみを落ち着けたいという方は、ストレスのコントロールにも目を向けてみましょう。
本記事では、ストレスとかゆみの関係やストレスとうまく付き合う方法についてもご紹介します。ぜひ最後までお付き合いください。
自律神経は、体のさまざまな働きを自動的に調整する神経で、興奮やストレス時に活発になる交感神経と、リラックスしているときに働く副交感神経のバランスによって機能しています。
ストレスを感じると交感神経が活発になり、その影響で体の防御反応が強まります。その結果、皮膚に炎症が起こり、かゆみが生じることが報告されているのです。
また、慢性的なストレスは、皮膚の保湿因子やセラミドの産生を低下させ、皮膚のバリア機能を弱めます。これにより、アレルゲンや刺激物質が侵入しやすくなり、かゆみを引き起こします。
ただ、かゆみが生じるメカニズムは複雑で、必ずしもストレスが原因とは限りません。
かゆみがあるとき、つい掻いてしまうとさらにかゆくなるという悪循環が起きます。なんらかの刺激によってかゆみが起きたときに、掻くことで脳に信号が伝わり、一旦かゆみが落ち着きます。
しkし、掻いてしまうと肌は目に見えなくても傷がつき、バリア機能が低下するのです。そして荒れてしまった肌は刺激に対して過敏となり、またかゆみが起きてしまうといわれています。
ストレスはかゆみの原因になるだけでなく、悪化する要因にもなっています。ストレスが多いと睡眠の質が悪くなったり、食事や運動に気を配った生活を送るのが難しくなりますよね。こうしたストレスによる生活習慣の乱れが、さらに肌のトラブルを引き起こしてしまうことがあります。
また、かゆみが発生すると、それがさらなるストレスとなり、かゆみをより強く感じるようになります。また、かゆみによる睡眠障害や集中力の低下が生活の質を下げ、さらにストレスを増大させるという悪循環に陥ります。
かゆみは夜に強くなる方が多いようです。日中は仕事など集中すべきタスクが多く、かゆみを意識しにくいと考えられます。夜に一息ついてリラックスしているときなどに、皮膚感覚の不快感が気になる方が多いようです。
また、夜は入浴によって体が温まったり、着替え時の摩擦などによって、肌への物理的な刺激が多くなるのも関係しているようです。
ストレスが発症や悪化に関係しているといわれている肌トラブルについて解説します。
蕁麻疹は皮膚の一部が赤く盛り上がり、しばらくすると消えるものです。かゆみを伴う場合が多く、ヒリヒリとした熱感をもつ人もいます。一旦蕁麻疹が消えても、繰り返し出る場合もあり、慢性化してしまうことも。
アレルギーや薬、寒さや日光など、きっかけになる刺激はさまざまですが、疲労やストレスが発症や悪化の要因になるといわれています。
アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹がよくなったり悪くなったりを繰り返す皮膚疾患です。アトピー性皮膚炎は、元々持っている体質やバリア機能の強さの他、さまざまな要因が複雑に関係することで発症するといわれています。
悪化させる要因の1つに精神的ストレスがあるようです。かゆみは、日常生活への影響も大きいため、「またかゆみが起きるのではないか」という不安を抱え、それがまたストレスとなってしまうこともあるのです。
皮膚に目立った変化がないにもかかわらず、かゆみが起きることを皮膚掻痒症といいます。かゆみの範囲はさまざまで、全身に及ぶ場合や、体の一部に固定してかゆみが生じる場合があります。
繰り返し起こるかゆみの原因は
・服用している薬
・なんらかの体の不調
などがあるとされています。
乾燥に対して保湿をしたり、薬や病気の治療をすることでかゆみが改善されることもありますが、ストレスによる反応として体のかゆみが起きる場合もあるようです。
ストレスによってかゆみが起きている、悪化していると思われる場合にできる対処法をまとめました。
皮膚のバリア機能を保ち、かゆみの発生を抑えるためにも保湿は重要です。保湿剤を塗るときは、惜しみなくたっぷり使うようにしましょう。
また、熱いお湯で入浴したり、長湯すると皮脂が流れ過ぎてしまい、かえって乾燥してしまうことも。「熱いお風呂がリラックス」という方もいらっしゃると思いますが、寝る前に熱いお風呂に入ると、なかなか体温が下がりにくく寝つきも悪くなってしまいます。
皮膚の面でもストレスの面でも、お風呂の温度は控えめにするとよいでしょう。
かゆみの発生、悪化に影響しているストレスとの付き合い方について考えてみましょう。ストレスを完全になくすことはできませんが、ストレスをうまく受け流して心身への影響を少なくする工夫は試してみましょう。
ー オススメのリラクゼーション法
体や心の緊張をほぐしたり、不安な気持ちを落ち着ける効果があるのが呼吸法です。
①リラックスできる姿勢になり、息を吸いながら両手を高く上げる
②口から息を吐き、力を一気に抜いて、手を下す(①~②を2セット繰り返す)
③4秒かけて鼻からゆっくり息を吸う
④息を止める
⑤ゆっくりと口から息を吐く(落ち着くまで③~⑤を繰り返す)お腹の痛みや不快感が排便と関連している
緊張が取れ落ち着いたら。手を軽く握って肘を引き、パッと両手を開くと同時に腕を前に伸ばす動作を3セット繰り返し、体に力が入る感覚を取り戻しましょう。
椅子に座って休憩時に行ってもよいですし、なんとなく寝付けないときに寝る前にやってみるのもオススメです。
体が温まると、かゆみを知覚する神経の働きが過敏になり、かゆみを感じやすくなります。室温が高い場合には、エアコンなどで調整するのもよいでしょう。
また、何かに集中しているときに、かゆみを意識しにくくなることもあります。音楽を聴いたり、アロマやお香などで香りを楽しむなど、触覚以外の五感に働きかけると気がまぎれますよ。
バランスのよい食事を目指す上では、まず主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を摂るように心がけてみましょう。栄養バランスのことはよくわからないという方は、定食メニューを想像していただくとイメージしやすいですよ。
定食までは難しくとも、おにぎりにカップ麺というような主食の重ね食べは控え、肉や魚、野菜など食べるものの種類を増やすことから始めてもよいですね。
ストレスによる影響を和らげ、免疫力を高めるという観点から、質のよい睡眠をとるのもオススメです。よい睡眠とは、量(睡眠時間)と質(休養感)が保たれていることを指します。年齢や個人差はありますが、6時間以上は睡眠時間を確保できるとよいですね。
なかなか睡眠時間を確保できないという方は、質が高い睡眠が取れるように
・夜はカフェイン、飲酒、喫煙を控える
・光、音、温度に配慮した睡眠環境を整える
といった点を意識してみましょう。朝気持ちよく起床でき「疲れが取れた」と感じられるのが質の高い睡眠です。
ご自身でできる対処も大切ですが、かゆみを我慢せず薬を正しく使うのも、改善の近道です。市販薬にもかゆみ止めの薬はありますが、選択肢も多く、どれが自分に合っているのか悩む方も多いでしょう。
受診して医師に相談し、ご自身の症状に合った薬を処方してもらうことも大切です。忙しくてなかなか受診できないという方は、オンライン診療もぜひ検討してみましょう。
ストレスがかかると免疫力が低下し、皮膚のバリア機能が乱れることでかゆみが起こりやすくなります。また、ストレスによる生活習慣の乱れも肌トラブルの一因となります。とくに夜はリラックス時にかゆみを感じやすくなることが多いです。
蕁麻疹(じんましん)・アトピー性皮膚炎・皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)など、ストレスによってかゆみが悪化する皮膚疾患もあります。
かゆみの対処法としては
・かゆみを紛らわせる:冷却や香り、音楽など五感を活用する。
・保湿を徹底:適切なスキンケアで皮膚のバリア機能を守る。
・バランスのよい食事:栄養を意識し、食事の偏りを防ぐ。
・質の高い睡眠:生活習慣を整え、十分な休息をとる。
・病院での相談:症状が続く場合は、医師に相談し適切な薬を使用する。
があります。
ストレスによるかゆみは、生活習慣や心のケアによって和らげることが可能です。セルフケアを意識しつつ、必要に応じて医療機関を活用しましょう。
本記事がかゆみとストレスに悩まされている方にとって役立ちますと幸いです。
参考文献
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国立精神・神経医療研究センター 呼吸法
厚生労働省 Good Sleepガイド
農林水産省 ちょうどよいバランスの食生活
Urakami H, Yoshikawa S, Nagao K etal.. Stress-experienced monocytes/macrophages lose anti-inflammatory function via β2-adrenergic receptor in skin allergic inflammation. J Allergy Clin Immunol. 2024 Nov 19:S0091-6749(24)01231-4. doi: 10.1016/j.jaci.2024.10.038. Epub ahead of print. PMID: 39566608.
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