過敏性腸症候群(IBS)とは?~治療や症状緩和の工夫をまとめました~
監修者:シンクヘルスクリニック院長 産婦人科医専門医 大村 美穂
執筆者:ライター 石倉美希 (臨床心理士・公認心理師)
目次
1 IBSとは?
1.1診断の流れ
1.2IBSのタイプ
2 QOL(生活の質)への影響
2.1ストレスの悪循環
2.2社会生活への支障
3 IBSの治療の基本
3.1生活習慣の見直し
3.2薬物療法
4 症状緩和の工夫
4.1食事
4.2運動
4.3ストレスマネジメント
4.4服薬
5 まとめ
「便秘が続いている」「緊張するとお腹を下してしまう」などお通じの不調を感じていませんか?その不調はもしかしたら過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。慢性的に続くお腹やお通じの不調は、生活への影響も大きいものです。
今回はIBSの基本や辛い症状を和らげる工夫をまとめました。ぜひ最後までお付き合いください。
IBSは過敏性腸症候群(irritable Bowel syndrome)の略称です。大腸に腫瘍や炎症病的な異常がないにもかかわらず、お腹の痛みや不快感、便秘や下痢などの異常が数か月以上続く病気です。
約10人に1人がIBSであるといわれており、とても身近な病気といえます。どちらかというと女性に起こりやすく、年齢とともに減ってくる傾向があるようです。
原因ははっきりとわかっていませんが、腸の動きがうまくいかないことで症状がでると考えられています。
ここ3か月の間に月に4日以上お腹の痛みが繰り返し起こるのに加えて、次の特徴のうち2つ以上に当てはまるとIBSの可能性が高いとされます。
・症状とともに排便の回数が変わる(増減する)
・症状とともに便の形状が変わる(軟らかくなったり硬くなったりする)
上記のような症状の他に、大腸に腫瘍や炎症といった他の病気がないかどうかを大腸内視鏡検査などで検査します。他の病気の可能性を除外した上で診断されます。
便の形状と頻度から4つの型に分けられます。
ー 便秘型
便が固くなり、コロコロとした便が出たり、便秘によってお腹の苦しさが目立つタイプです。ストレスによって便秘が悪化することも。女性に多い傾向があるといわれています。
ー 下痢型
緊張するとお腹が痛くなったり、下痢をするタイプです。一日に何度も水のような便が出たり、下痢の便に粘液がついているような場合もあります。男性に多い傾向があるとされています。
ー 混合型
下痢をしたり、便秘をしたりと変動し、お腹の状態が不安定なタイプです。混合型の患者さんが最も多いと報告されています。
ー 分類不能型
上記の3つのタイプに該当しない場合は分類不能型とされます。
ー ガス型
専門家の治療方針であるガイドラインでは正式に分類されていないものの、ガスが多く出るタイプの症状に悩まされている方も多いようです。おならが頻繁に出たり、お腹が張って苦しいと感じる場合、ガス型と判断されることもあります。
IBSは生命にかかわる病気でない一方、症状の特徴から社会生活に支障をきたすことが多く、QOL(生活の質)へも影響します。
脳と腸はお互いに影響を及ぼし合う関係です。これを脳腸相関とよびます。ストレスによって心理的負荷がかかることで、消化管にも影響が出ます。
また、お腹の不調やお通じの異常は「いつお腹の痛みや下痢になるか」という不安、緊張、抑うつなどのストレスになり、ストレスの悪循環が起こるのです。
お腹の痛みがストレスと連動することが多いため、家でリラックスしているときよりも、外出先での症状が強まる方が多いようです。
とくに下痢型の方は、トイレに行きにくい状況や緊張するような場面で下痢が出やすくなるため、いつもトイレの場所や時間を気にして不安が強くなることもあります。また、ガス型の方もおならの音や臭いを気にして、人付き合いを避けてしまう場合もあります。いつもお腹の調子を気にする生活は辛いものですよね。
治療の柱となるのは生活習慣の見直しと薬物療法です。
食事や運動、ストレス、睡眠など生活習慣を改善することが基本です。
後ほどご紹介する症状緩和の工夫をぜひ参考にしてみてください。生活習慣の改善に気を配っているのに症状がよくならないという場合は薬物療法が行われます。
症状によって薬は異なりますが、消化管運動を改善する薬、腸内の状態を整えるプロバイオティクス製剤、便の水分量を整える薬、腸の動きを調整する薬などを使うのが一般的です。
薬物療法で効果が出にくいときは、カウンセリングなど心理面からのアプローチによってストレスとの付き合い方を学んでいく方法もありますよ。
IBSの症状を和らげるために、日常生活で気を付けたいことをまとめました。
食事に関して気を付けたいのは、IBSの症状が起きやすい食品(炭水化物や脂質の多い食事、カフェイン、香辛料、アルコールなど)を控えることです。
また、近年注目されている低FODMAP(フォドマップ)食を意識するのもよいでしょう。FODMAPとは特定の種類の炭水化物を頭文字を合わせた言葉で、大腸でガスを発生させたり、水分を引き込んだりして、お腹の張りや痛みを引き起こしやすい食品です。
高FODMAP食品(避けた方がよいもの)
穀物:パン、パスタ、ケーキなどの小麦製品
果物:リンゴ、スイカ、マンゴーなど
野菜:玉ねぎ、にんにく、キャベツなど
乳製品:牛乳、ヨーグルト、アイスクリームなど
甘味料:はちみつ、果糖シロップなど
低FODMAP食品
穀物:白米、オートミール、グルテンフリーのパンなど
果物:バナナ、オレンジ、イチゴなど
野菜:きゅうり、にんじん、なすなど
乳製品:ラクトースフリー牛乳、ハードチーズ(チェダーなど)
甘味料:肉、魚、卵など
高FODMAP食品を完全に避ける必要はなく、また、低FODMAP食品で必ずIBS症状が緩和するとも限りません。
乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などの腸内細菌のバランスを改善する菌(プロバイオティクス)を含む薬品や食品を摂るのも、症状の緩和に効果的といわれています。
体質によって相性の良い・悪い食品は変わりますので、体調を確認しながら食事を調整しましょう。
ヨガ、ウォーキング、エアロビクスなどの運動を行うことで、IBSの症状が軽減することがわかっています。また、運動を長期的に続けると、大腸の症状だけでなく、ゲップや怠さなどの不快症状の軽減にも役立つそうです。
運動するための時間が取れない方は、仕事帰りに1駅手前で降りて歩いたり、意識的に階段を使ってみることから始めてみましょう。
ストレスはIBS症状と連動しているといわれています。お腹の不調が続くと、どうしてもそのことばかりに注目してしまい、ちょっとした調子の変化にも過敏になってしまう方が多いようです。体の緊張をほぐしたり、お腹以外の場所に意識を向けるのに役立つのが、呼吸法です。
・肩を動かさないようにし、お腹に手を当てる
・息を吸う前に、ゆっくり息を吐ききる
・1秒息を止めたあと、鼻から息を吸い込み、お腹のふくらみを感じる
・たっぷり吸えたら1秒止め、ゆっくりと息を吐く
呼吸に注目すると、つい息を吸うことを意識してしまいますが、息をたっぷり吸うためには最初に息を吐ききることが大切です。
5~10分程度続けてみましょう。座っていても手軽にできるのでオススメです。
「薬を飲んだら手放せなくなるのでは」「効果があるのかどうか不安」と薬を飲むのをためらう方もいらっしゃると思います。しかし、薬で痛みや腸の動きをコントロールすることで、ストレスの悪循環を断ち切れるため、IBSの症状を早く緩和するのにつながると考えられます。
症状によって選択される薬も変わるため、自分の症状に合う薬を医師と相談して見つけましょう。受診を迷っている方は、まずは手軽に受診できるオンラインクリニックで相談してみるのはいかがでしょうか。
過敏性腸症候群(IBS)とは腸に腫瘍や炎症がないにもかかわらず、お腹の痛みや不快感、便秘や下痢などの異常が数か月以上続く病気です。腸と脳は双方向に関連しており、ストレスの影響も大きいといわれてます。
便秘型・下痢型・混合型・分類不能型・ガス型など便の形状や変化によって病態が異なります。
治療の基本は生活習慣の見直しと薬物療法です。
症状緩和のためには
・運動…生活の中でこまめに動き、運動量を増やす
・ストレスマネジメント…呼吸法などで緊張をほぐし、症状から意識を逸らす
・服薬…自分にあった薬を見つけ、ストレスに悪循環を断ち切る
を意識してみてください。
それでは本記事が過敏性腸症候群(IBS)の症状に悩む方が治療を始めるきっかけを得たり、症状緩和の工夫を知るのに役立つと幸いです。
参考文献
藤井 他 (2021). 過敏性腸症候群に対する力動的心理療法・ストレスマネジメントの実際 心身医学研究 61 (4). 321-329.)
日本消化器病学会 患者さんとご家族のための過敏性腸症候群(IBS)ガイド2023
日本消化器病学会 機能性消化管疾患診療ガイドライン 2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第 2 E)
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