糖尿病は「治る」の?──2型糖尿病で“寛解”をめざすために必要なこと
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執筆者:シンクヘルスクリニック院長 岩佐美穂
共同執筆者:日本内科学会総合内科専門医・日本糖尿病学会専門医 櫻木哲詩
目次
1 糖尿病は治る病気なの?
1.1 「完治」ではなく「寛解」を目指す理由
1.2 1型糖尿病と2型糖尿病の違い
2 「完治」とは違う?2型糖尿病でいう“寛解”の正しい意味
2.1 寛解の定義と維持の考え方
2.2 寛解しても薬を続けた方がよい場合がある
2.3 初期段階ほど寛解の可能性は高い
2.4 継続を支えるオンライン診療
3 寛解のカギは「継続できる生活改善」──食事・運動・血糖管理のポイント
3.1 続けやすい食事管理のコツ
3.2 運動を日常のルーティンにする
3.3 血糖データの「見える化」
4 デジタルテクノロジーの活用
5 まとめ:“治す”から“コントロールして寛解へ”。今日から始められる第一歩を
健康診断で血糖値の異常を指摘され「糖尿病は一生治らないのか」と不安を感じる方は少なくありません。
とくに仕事や育児、家事に追われる世代にとって、通院や食事制限がずっと続くイメージは、大きな心理的負担になりやすいものです。
2型糖尿病では「完治」という言葉は使いません。一方で、一部の方ではお薬を使わずに血糖値が良好に保たれる「寛解(かんかい)」という状態を目指せることがわかってきました。
ただし、2型糖尿病は単に食べすぎや運動不足だけで起こる病気ではありません。遺伝的な体質、インスリンを分泌する力、インスリンの効きにくさであるインスリン抵抗性、年齢、体重、生活環境、ストレス、睡眠など、さまざまな要因が複雑に関係しています。
そのため、必要な治療や、寛解を目指せる可能性は一人ひとり異なります。
この記事では、糖尿病における寛解の正しい意味と、寛解を目指すために大切な生活改善・治療継続のポイントをわかりやすく解説します。
| 糖尿病は治る病気なの?
糖尿病と診断されたとき、「糖尿病は治るのだろうか」と不安に感じる方は少なくありません。
結論からいうと、糖尿病では一般的に「完治」という表現は使われません。
ただし、2型糖尿病では、一部の方が生活習慣の改善や減量、適切な治療によって、血糖降下薬を使わなくても血糖値が糖尿病の診断基準を下回る状態を維持できることがあります。この状態を「寛解(かんかい)」といいます。
ただし、寛解は「糖尿病が完全に治った」という意味ではありません。寛解したあとに再び血糖値が上昇することもあるため、定期的な検査や生活習慣の管理を続けることが大切です。
| 「完治」ではなく「寛解」を目指す理由

「完治」という言葉には、一般に病気が治り、再発の心配がほとんどない状態というイメージがあります。一方、2型糖尿病では、血糖値が正常に近い状態まで改善して薬が不要になったとしても、その後、体重の増加や生活習慣の変化などによって再び血糖値が上がることがあります。
そのため、糖尿病が「完全に治った」と考えるのではなく、「寛解」という言葉が使われます。2型糖尿病における寛解とは、一般に、血糖を下げる薬を使用しなくても、HbA1c 6.5%未満の状態が少なくとも3か月続いていることを指します。
ただし、寛解は「もう何を食べても大丈夫」「通院や検査が不要」という意味ではありません。生活習慣が大きく乱れたり、体重が増えたりすると、再び血糖値が上がる可能性があります。また、寛解後も定期的に血糖値や合併症のチェックを続けることが大切です。
つまり寛解とは、糖尿病が完全になくなった状態ではなく、薬を使わなくても血糖値が良好な状態を維持できている状態、と考えるとよいでしょう。
| 1型糖尿病と2型糖尿病の違い
糖尿病にはいくつかの種類があり、その原因や治療法、寛解の考え方も病型によって異なります。
2型糖尿病は、遺伝的な体質に加えて、生活習慣や体重増加、内臓脂肪など様々な要因が関係して発症する病気です。ただし、単に「食べすぎ」や「運動不足」だけで起こるわけではありません。
実際には、インスリンを分泌する力やインスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)、年齢、体重、生活環境、ストレス、睡眠習慣など、さまざまな要因が複雑に関係しています。
たとえば、比較的やせている方でも、もともとインスリンを分泌する力が弱い場合には、血糖値が上がりやすくなることがあります。反対に、体重増加や内臓脂肪の蓄積などによってインスリンが効きにくくなり、血糖値が上がる方もいます。
つまり、2型糖尿病になる背景は人によって異なります。
そのため、治療も「全員が同じ食事制限をする」「全員が体重を減らせばよい」という単純なものではありません。検査結果や体格、生活状況、インスリンの分泌状態などを確認しながら、一人ひとりに合った治療方針を考えることが大切です。
一方、1型糖尿病は、多くの場合、自己免疫などによって膵臓のインスリンを作るβ細胞が破壊され、インスリンが著しく不足する病気です。そのため基本的にはインスリンを補う治療が必要になります。2型糖尿病でいう意味での「薬を使わなくても血糖値が糖尿病の基準を下回る状態」という意味での寛解を治療目標とする病気ではありません。
ただしインスリン製剤や持続血糖測定器(CGM)、インスリンポンプなどの進歩により、血糖管理の選択肢は大きく広がっています。1型糖尿病でも、適切な治療を続けながら、学校生活や仕事、運動、旅行などを含め、自分らしい生活を送ることができます。
| 「完治」とは違う?2型糖尿病でいう“寛解”の正しい意味
2型糖尿病における寛解は、単に「今の血糖値が良い」という意味ではありません。
一定期間にわたり薬に頼らず血糖値が良好に保たれている状態、を指します。これは将来の合併症リスクを減らし、健康的な生活を続けるうえで大切な目標のひとつです。
| 寛解の定義と維持の考え方
2型糖尿病の寛解は、一般的に血糖を下げる薬を使用せずに少なくとも3か月以上、HbA1c 6.5%未満を維持している状態とされています。
HbA1cとは、過去1〜2か月程度の血糖状態を反映する検査値です。糖尿病の診断や治療効果の確認などに広く用いられます。
ただし、寛解に入ったからといって、将来再び血糖値が上昇する可能性がなくなるわけではありません。
体重の増加や生活習慣の変化などをきっかけに、再び糖尿病の基準を満たすようになることがあります。
そのため、寛解後も定期的なHbA1cなどを確認するとともに、体重や食事、運動などの生活習慣を継続して管理することが大切です。
| 寛解しても薬を続けた方がよい場合がある
寛解というと、「薬を完全にやめること」と考える方もいるかもしれません。
たしかに2型糖尿病の寛解は一般的に、血糖を下げる薬を使わなくてもHbA1cが良好に保たれている状態を指します。
しかし実際には患者さんの背景によって、血糖値が改善したあとも一部の薬を続けた方がよい場合があります。
その代表例が、SGLT2阻害薬です。
SGLT2阻害薬は血糖値を下げる薬として使われますが、近年ではそれだけでなく、腎臓を守る作用や心不全を防ぐ作用も期待されるようになっています。
特に、慢性腎臓病、尿アルブミン陽性、心不全、心血管疾患の既往がある方では、血糖値が改善していても、合併症予防の観点から内服継続を検討することがあります。
また、GLP-1受容体作動薬なども、患者さんによっては体重管理や心血管リスク低減の観点から継続を検討することがあります。
つまり、糖尿病治療の目標は「薬をゼロにすること」だけではありません。
大切なのは、血糖値だけでなく、腎臓・心臓・血管を含めた将来の健康リスクを総合的に下げることです。
ただし、ここで注意したいのは、血糖を下げる作用のある薬を継続している場合、現在の一般的な定義では「寛解」と判定することが難しいという点です。つまり、「寛解と判定されること」と「薬をやめること」が、必ずしもすべての患者さんにとって最優先の治療目標になるわけではありません。糖尿病治療で大切なのは、薬をゼロにすることだけではなく、血糖値に加えて、腎臓や心臓、血管などを含めた将来の健康リスクを総合的に減らすことです。
そのため、HbA1cが改善したからといって自己判断で薬を中止するのは避けましょう。
薬を減らすか、続けるか、変更するかは、血糖値、体重、腎機能、尿アルブミン値、血圧、心血管疾患などの有無などを確認しながら、医師と相談して決めることが大切です。
| 初期段階ほど寛解の可能性は高い

2型糖尿病では、一般に診断されてからの期間が短いほど寛解を目指しやすいことが知られています。
特に、過体重や肥満があり、体重増加や内臓脂肪の蓄積などによってインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が強い方では、食事や運動などの生活習慣を見直し、適切に減量することで血糖値が大きく改善することがあります。
一方で、2型糖尿病の背景は人によってさまざまです。
比較的やせていても、もともとインスリンを分泌する力が低下していると血糖値が上がることがあります。また、発症から時間が経つほどインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の機能が低下していくことがあります。
そのため寛解を目指せるかどうかは、体重だけで決まるものではありません。
そのため、寛解を目指せるかどうかは、体重だけで決まるものではありません。発症からの期間、HbA1c、体重や内臓脂肪の程度、インスリン分泌能、年齢、生活環境、合併症や併存疾患など、さまざまな要素が関係します。
だからこそ、健康診断などで血糖値やHbA1cの異常を指摘されたら、症状がなくても早めに医療機関を受診することが大切です。
糖尿病は、初期には自覚症状がほとんどないことも珍しくありません。「症状がないから大丈夫」と受診を先延ばしにしている間にも、高血糖が続いている可能性があります。
早い段階で自分の血糖状態を把握し、必要に応じて生活習慣の改善や治療を始めることは、寛解の可能性を高めるだけでなく、将来の糖尿病合併症を予防するうえでも重要です。
健康診断で血糖値やHbA1cの異常を指摘されたら、放置せず、まずは医療機関で詳しい検査や相談を受けましょう。
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| 継続を支えるオンライン診療
寛解を目指すうえで大切なのは、無理なく治療や生活改善を続けることです。
しかし仕事や家事、育児で忙しい方にとって、定期的な通院は負担になりやすいものです。通院のたびに仕事を休んだり、移動時間を確保したりすることが難しく、治療を中断してしまう方も少なくありません。
そこで当院では、スマートフォンを活用したオンライン診療を導入しています。オンライン診療では、自宅や職場、出張先などから医師に相談できるため、通院にかかる時間的・心理的な負担を減らしやすくなります。
もちろん、血液検査や合併症のチェックなど、対面での診察が必要な場面もあります。
そのためオンライン診療は、すべてを置き換えるものではなく、必要な検査や対面診療と組み合わせながら、治療を続けやすくする手段と考えるとよいでしょう。
オンライン診療は「合併症は怖いが通院の時間がない」と悩む方にとって、精神的なハードルを下げる有効な方法です。専門医と定期的につながることで、一人で悩まず前向きに治療を続けやすくなるでしょう。
▼当院のオンライン診療について詳しく知りたい方はこちらから▼
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| 寛解のカギは「継続できる生活改善」──食事・運動・血糖管理のポイント
2型糖尿病の寛解を目指すうえで、食事・運動・体重管理・血糖管理はとても重要です。
ただし、大切なのは「完璧な生活」を目指すことではありません。
今の生活スタイルの中で、無理なく続けられる工夫を少しずつ積み重ねることです。
| 続けやすい食事管理のコツ
食事療法の基本は、血糖値を急激に上げにくい食べ方を身につけることです。
たとえば、食事の最初に野菜・海藻・きのこ類などを食べる「ベジファースト」は、血糖値の急上昇を抑える工夫のひとつです。
外食が多い方は、丼ものや麺類だけで済ませるよりも、主食・主菜・副菜がそろった定食を選ぶと、栄養バランスを整えやすくなります。
糖質を完全にゼロにする必要はありません。極端な糖質制限は続けにくく、反動で食べすぎにつながることもあります。
ごはんの量を少し調整する、野菜やたんぱく質を増やす、甘い飲み物を控えるなど、毎日続けられる方法を選ぶことが大切なのです。
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| 運動を日常のルーティンにする
運動習慣のない方は、まずは1日10〜15分程度のウォーキングや、軽い筋トレから始めてみましょう。
特に食後に軽く体を動かすと、食後血糖の上昇を抑えやすくなります。
階段を使う、一駅分歩くなど、日常の動作を「運動」に変える意識を持つことが大切です。「特別な運動を頑張る」ことよりも、日常生活の中に自然に体を動かす時間を組み込むことが継続のコツなのです。
| 血糖データの「見える化」

自分が何を食べたときに血糖値が上がりやすいのか、どのような生活をしたときに改善しやすいのかを知ることは、生活改善の大きな助けになります。
最近では、スマートフォンアプリや血糖測定器、持続血糖測定器(CGM)を使って、血糖値や食事、体重、運動量を記録する方法も広がっています。
数字やグラフで変化が見える化すると、「この食べ方なら血糖値が上がりにくい」「歩いた日は数値が安定しやすい」といった気づきが得られます。
さらに記録したデータを医師と共有することで、自分に合った改善方法を見つけやすくなります。
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| デジタルテクノロジーの活用
オンライン診療は、健康管理アプリや測定デバイスとの相性が非常に良いのが特徴です。診察時に血糖値、体重、食事内容、運動量などのデータを共有できれば、医師もより具体的なアドバイスをしてくれるでしょう。
「飲み会の翌日に血糖値が上がった」「昼食後だけ血糖値が高い」「運動した日は数値が安定している」といった変化をもとに、食事の選び方や運動のタイミングを一緒に見直すことができます。
自己流で悩み続けるよりも、データをもとに専門家と相談することで、無理のない改善策を見つけやすくなりますよ。
| まとめ:“治す”から“コントロールして寛解へ”。今日から始められる第一歩を
2型糖尿病は、一度診断されたら必ず悪化し続ける病気ではありません。適切な治療や生活改善によって血糖値を良好に保ち、薬を使わずに安定した状態である「寛解」を目指せる場合があります。
ただし、寛解は「もう糖尿病を気にしなくてよい状態」ではありません。
2型糖尿病には、遺伝的な体質、インスリンを分泌する力、インスリンの効きやすさ、体重、生活環境など、さまざまな要因が関係しています。そのため寛解を目指す場合も、寛解後に維持していく場合も、自分に合った方法で血糖値を管理していくことが大切です。
また、薬を使わないことだけが治療のゴールではありません。
SGLT2阻害薬など、血糖値が改善したあとも腎臓や心臓を守る目的で継続を検討する薬もあります。薬を減らすか続けるかは、血糖値だけでなく、合併症リスクも含めて医師と相談して判断しましょう。
そして血糖管理において大切なのは、できることから始めてみることです。
食事の選び方を少し変える、食後に歩く時間をつくる、血糖値や体重を記録する、医師に相談する。こうした小さな積み重ねが、将来の合併症予防につながります。
健康診断で血糖値を指摘された方や、治療を続けられるか不安な方は、今の生活スタイルや検査結果について一度相談してみてください。自分に合った治療方針を知ることが、無理なく血糖値を整えていく第一歩になります。
参考文献
・一般社団法人 日本糖尿病学会 2型糖尿病の寛解に関するコンセンサス・レポート
・厚生労働省 健康づくりサポートネット 糖尿病
・国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 糖尿病とは

日本赤十字社医療センター、虎の門病院で産婦人科医として臨床経験を積む。「忙しく頑張っている人がもっと気楽に相談できる場所を作りたい」との想いを胸に、2024年11月、オンライン診療専門のシンクヘルスクリニックを開院。
内科、皮膚科、医療用漢方、婦人科など、受診者の悩みに幅広く対応。心のケアも大切に、一人ひとりが安心して自分の体と向き合えるようサポートしている。

シンクヘルスクリニック 非常勤医師
櫻木哲詩
資格(日本内科学会認定内科医、日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医、日本フットケア・足病医学会 弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター)
所属学会(日本内科学会、日本糖尿病学会、日本褥瘡学会 在宅ケア推進協会、日本形成外科学会)
鳥取大学医学部にて地域枠一期生として卒業。鳥取県内でも有数の総合病院である山陰労災病院にて、糖尿病内科医として様々な症例を経験し副部長に就任。生まれ育った地域の方々への思いから、より深く地域医療に貢献するべくサクラギクリニックを開院。
専門医としての立場から医学的に最適な治療を考え、患者の生活や家族背景などを踏まえた総合的な判断で治療することを心がけている。




