カンジダ症を繰り返す理由は?再発を防ぐために
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日本赤十字社医療センター、虎の門病院で産婦人科医として臨床経験を積む。「忙しい女性がもっと気楽に相談できる場所を作りたい」との想いを胸に、2024年11月、オンライン診療専門のシンクヘルスクリニックを開院。
婦人科(生理痛・更年期)、皮膚科、医療用漢方など、女性ならではの悩みに幅広く対応。心のケアも大切に、一人ひとりが安心して自分の体と向き合えるようサポートしている。
目次
1 カンジダ症とは
1.1 原因はカビ?カンジダ菌による感染症
1.2 主な症状
2 カンジダ症を繰り返す原因として考えられること
2.1 腟内の細菌バランスの乱れ
2.2 女性ホルモンバランスの変化による影響
2.3 生活習慣やセルフケアの落とし穴
3 症状が続く、毎月繰り返す場合の注意点
3.1 症状が続く場合は他の病気の可能性も
3.2 毎月再発する場合
3.3 完治するのか
4 妊娠中のカンジダ症、赤ちゃんへの影響は
4.1 妊娠中はカンジダ症になりやすい
4.2 治らないまま出産した場合のリスク
5 繰り返さないための治療とセルフケアのポイント
5.1 受診すべきタイミング
5.2 カンジダ症の治療方法
5.3 自己判断の市販薬が症状を悪化させることも
5.4 再発を防ぐ生活習慣の見直し
6 まとめ
かゆみやおりものの異常、「カンジダかも…」と悩んでいませんか?
腟カンジダ症は多くの女性が経験する身近な感染症ですが、一度治っても再発しやすいのが特徴です。
繰り返す背景には、腟内環境の乱れやホルモンバランス、生活習慣などさまざまな要因が関係しています。
この記事では、カンジダ症を繰り返す理由と再発を防ぐためのセルフケアや治療のポイントをわかりやすく解説します。
| カンジダ症とは
カンジダ症は、体のさまざまな部位に発生する可能性のある感染症ですが、この記事では女性の性器に症状がみられる腟カンジダ症を取り上げて解説します。
腟カンジダ症は日常生活に影響を及ぼすことが多く、適切な治療と再発予防が重要です。
| 原因はカビ?カンジダ菌による感染症
カンジダ菌は、真菌(カビ)の一種であり、健康な体内や皮膚、腟内に常在しています。
通常は問題を起こしませんが、腟内の環境が乱れたり免疫力が低下したりすると、菌が増殖して炎症やかゆみなどの症状を引き起こすのです。
とくに女性では腟内(および外陰部)で発症することが多く、腟カンジダ症(外陰腟カンジダ症)として知られています。
また、75%の女性が生涯に一度は発症するといわれるほど、日常に頻繁にみられる疾患です。
性器の感染症といわれると性行為が原因と思われる方もいるかもしれませんが、性行為の経験がなくても感染、発症することがあります。
| 主な症状
カンジダ症の典型的な症状は、
・白くカッテージチーズ状や酒粕状のおりもの
・排尿時の痛みや違和感を伴うこともある
などであり、日常生活への影響も大きいといえるでしょう。
| カンジダ症を繰り返す原因として考えられること
カンジダ症は一度治っても、再び症状が出ることがあります。繰り返す原因には、複数の要因が関係しています。
| 腟内の細菌バランスの乱れ
腟内はもともと乳酸菌の一種である「ラクトバチルス」と呼ばれる善玉菌が多く存在し、弱酸性の環境を保っています。
この環境は、カンジダをはじめとする病原菌の増殖を抑える働きを担っています。
ところが、抗生物質の使用、過労やストレス、ホルモンバランスの変化などによってラクトバチルスが減少すると、このバランスが崩れ、カンジダが増殖しやすくなるのです。
カンジダ症の患者にラクトバチルスを含むプロバイオティクス(生きた微生物)を投与した研究では、腟内の乳酸菌が増加し、かゆみやおりものなどの症状緩和が示されました。
このことから、腟内環境を整えることで再発を抑える可能性が考えられます(※)。
近年では、ラクトバチルスを補給するサプリメントや、腟内投与製剤の開発も進み、腟内環境を整える補助的手段として注目されています。
ただし、効果はサプリの種類や個人の腟内環境によって異なるため、自己判断での長期使用はおすすめできません。繰り返す腟カンジダ症でお悩みの方は、医療機関に相談することが大切です。
※Mändar R, Sõerunurk G, Štšepetova J, et al. (2023) Impact of Lactobacillus crispatus-containing oral and vaginal probiotics on vaginal health: a randomised double-blind placebo controlled clinical trial. Beneficial Microbes. 14(2):143-152.
| 女性ホルモンバランスの変化による影響
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、腟の粘膜や腟内環境に大きな影響を与えます。
とくに排卵期や妊娠中はエストロゲンが高く、腟粘膜にグリコーゲンという物質が多く蓄積され、このグリコーゲンがカンジダ菌の栄養源となり症状が出やすくなるのです。
ピルの使用によってホルモンバランスが変化した場合も腟内環境に影響することがあります。
カンジダ症を「周期によって繰り返す」「妊娠中に悪化する」という方は、女性ホルモンバランス変化によるものと考えられるでしょう。
| 生活習慣やセルフケアの落とし穴
カンジダ症は、何気ない生活習慣やセルフケアが再発の引き金になることがあります。
たとえば腟を清潔に保とうと、石けんで繰り返し洗ったり洗浄液を頻繁に使ったりすると、本来腟内環境を守っている善玉菌まで減り、かえってカンジダ菌が増えやすくなります。
また、通気性の悪い下着やきつい衣服、おりものシートの長時間にわたる使用など、湿気の多い環境も菌の繁殖を助けることがあるため注意が必要です。
さらに、カンジダは糖を栄養源に増殖するという特徴があります。
そのため、糖尿病などで血糖値が高い状態が続くとカンジダ症を繰り返しやすくなります。
一般的な食生活で甘いものを少し食べる程度では大きな影響はありませんが、バランスのよい食事を心がけることは再発予防にも役立ちます。
| 症状が続く、毎月繰り返す場合の注意点
症状が長期間続いたり、毎月のように再発する場合は、単なるカンジダ症ではない可能性も考えられます。
放置すると悪化するリスクもあるため、注意すべきポイントや受診の目安を理解しておくことが大切です。
| 症状が続く場合は他の病気の可能性も
腟のかゆみやおりもの異常が長期間続く場合、カンジダ症以外の腟炎や性感染症の可能性も考えられます。
カンジダ症と似た症状を呈する疾患には、細菌性腟炎や腟トリコモナス症があります。
細菌性腟炎は、腟内の常在菌バランスの乱れによって起こり、水っぽく灰白色のおりものや生臭いにおいが特徴で、強いかゆみは少ないものの不快感に悩む方が多いです。
腟トリコモナス症は原虫による感染症で、黄緑色の泡状おりものや強いかゆみ、腟の灼熱感を伴い、性交渉によって感染します。
これらはカンジダ症に似ていても原因や治療法が異なるため、自己判断で市販薬を使用せず、婦人科での検査・診断を受けることが重要です。
当院ではオンライン診療に対応しており、自宅から気軽に相談できるため、忙しい方や外出が難しい方にも便利です。
関連記事:性感染症(STD)は自宅で検査できるの?正しい知識を身につけよう
| 毎月再発する場合
最初に述べた通り、カンジダ症は体内の常在菌が増殖することで発症します。
腟内環境やホルモンバランスの変化によって再発しやすい疾患であり、人によっては生理周期に関連して繰り返す場合もあります。
また、自己判断で市販のかゆみ止めや抗真菌薬を使用している場合など、適切な治療がなされていないために症状を繰り返しているという可能性もあります。
いずれにせよ、再発した際は適切な診断と治療のために医療機関への相談を検討しましょう。
| 完治するのか
適切な治療を行えば、多くの場合カンジダ症は完治します。
適切な治療薬を用いることで、ほとんどの場合、1週間ほどで症状が落ち着くといわれています。
しかし、先にも述べたようにカンジダ症は再発しやすいという特徴があるので、普段のセルフケアや生活習慣の見直しも重要です。
| 妊娠中のカンジダ症、赤ちゃんへの影響は
妊娠中のカンジダ症は、治療をせずに放置すると赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。ここでは、妊娠中の注意点やリスクについて詳しく解説します。
| 妊娠中はカンジダ症になりやすい
妊娠中はホルモン変化と免疫力が低下するため、カンジダ症になりやすいのです。
妊娠中は肌がデリケートになりやすいため、性器のかゆみやおりものの変化はよくみられますが、気になる症状が出たら自己判断せず医師に相談することが大切です。
| 治らないまま出産した場合のリスク
妊娠中にカンジダ症を発症しても、すぐに胎内の赤ちゃんに影響することは通常ありません。
しかし、治療を受けないまま出産すると産道を通る際に赤ちゃんへカンジダ菌が感染してしまうことがあります。
その結果、赤ちゃんの口の中に白い斑点が出る「口腔カンジダ(鵞口瘡)」を起こすことがあるのです。命に関わる病気ではないものの、哺乳がうまくできなかったり、眠りが浅くなったりする原因になることもあります。
赤ちゃんにとっては小さな症状でも生活に大きな負担となるため、妊娠中に異常を感じた場合は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
| 繰り返さないための治療とセルフケアのポイント
カンジダ症を再発させないためには、医師による適切な治療と日常生活でのセルフケアの両立が重要です。
ここでは、受診のタイミングや治療方法、市販薬の使用について、さらに生活習慣の見直しポイントまで解説します。
| 受診すべきタイミング
カンジダ症は強いかゆみや排尿痛などの症状がみられることもあり、日常生活への影響も少なくありません。
また、市販薬の使用などで一度症状が和らいだとしても、症状が長引いたり、毎月繰り返すこともあります。症状を自覚した際は早めに医療機関を受診することが望ましいでしょう。
| カンジダ症の治療方法
治療には腟錠、塗り薬、内服薬などの抗真菌薬が使用されます。当院でもカンジダに対する腟錠と塗り薬を取り扱っています。
・腟錠
膣内に入れて使うタイプのお薬です。1日1錠を6日間続けて使用します。直接患部に作用し、症状の緩和を助けます。
・塗り薬
外陰部のかゆみや赤みなどに塗って使うタイプのお薬です。1日2~3回を目安に患部に塗布します。どちらのお薬も、使用を始めてから1週間ほどで症状が落ち着くことが多いです。
| 自己判断の市販薬が症状を悪化させることも
カンジダ症と思われる症状があっても、忙しさや受診への抵抗感から市販薬で対応したいと考えることもあるかもしれません。
しかし、腟カンジダ症の市販薬は一類医薬品のため、購入時には薬剤師の説明を受ける必要があります。薬剤師の勤務時間や相談環境によっては相談しにくく、不便を感じる方もいるでしょう。
また、自己判断で市販薬を使用すると、症状が悪化したり、別の病気に気づかずに症状を長引かせる可能性があります。
当院では女性医師も診療を行っており、オンラインでの診療、治療薬の処方が可能です。忙しい方や受診しづらさを感じている方も気軽にご相談いただけます。
| 再発を防ぐ生活習慣の見直し
カンジダ症の再発を防ぐには、腟内環境やホルモンバランスを整えるためにも、生活習慣やセルフケアの見直しが大切です。
具体的には、
・過剰な患部の洗浄を避け、自然な腟環境を維持する
・糖分の過剰摂取を控え、バランスの良い食生活を送る
・充分な睡眠とストレス管理で免疫力を維持する
などに気をつけるとよいでしょう。
| まとめ
カンジダ症は真菌の一種であるカンジダ菌による感染症であり、症状があらわれても早めに適切な診断と治療を受けることが大切です。
症状が長引く、毎月繰り返す場合、別の病気である可能性も考えられるため、自己判断せず医療機関の受診をお勧めします。
また、カンジダ症には再発しやすい特徴があるため、生活習慣やセルフケアを見直すことで再発を防ぎましょう。
この記事が、快適な日常を送る一助となれば幸いです。
参考文献
日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン「婦人科外来編2023」
日本性感染症学会 性感染症 診断・治療ガイドライン 2016
Mändar R, Sõerunurk G, Štšepetova J, et al. (2023) Impact of Lactobacillus crispatus-containing oral and vaginal probiotics on vaginal health: a randomised double-blind placebo controlled clinical trial. Beneficial Microbes. 14(2):143-152.