プレコンセプションケアとは?妊娠前から始める健康管理の重要性

執筆者:シンクヘルスクリニック院長 産婦人科専門医 大村 美穂
目次
「将来、赤ちゃんを迎えたい」と考えたとき、妊娠はまだ先の話だからと準備を後回しにしていませんか?
実は、健康な妊娠やスムーズな出産には、妊娠前の体づくりがとても重要です。食生活や運動習慣、ストレス管理など、普段の生活が妊娠のしやすさや、妊娠経過、赤ちゃんの健康状態に大きく影響します。近年、初産年齢の上昇や不妊の増加が問題視される中、今からできるケアを知っておくことが大切です。
本記事では、プレコンセプションケアの重要性や病院で受けられる検査、日常生活での実践方法について詳しくご紹介します。ぜひ最後までお付き合いください。
プレコンセプションケア(Preconception Care)とは、若いうちから男女ともに将来の妊娠などを意識して健康管理を行うことです。プレ(pre)は「~の前に」、コンセプション(conception)は「懐妊(妊娠)」という意味です。
妊娠前の健康状態や生活習慣を整え、
・妊娠合併症のリスクを低減し、母体および赤ちゃんの健康を守ること
が目的として挙げられます。思春期以降の若い世代の方を中心にプレコンセプションケアが推奨されています。
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妊娠、出産には適した時期があり、そのときに自身が健康であることが大切です。若いうちから妊娠、出産の正しい知識を持ち、健康管理をしっかりすることで、将来子供がほしくなったときに安全に出産を迎えられるようになります。
現在、日本では女性の平均初婚年齢は29.7歳、一人目のお子さんを産むときの平均年齢は30.7歳といわれています。(1)
35歳以上で初めてお子さんを産む方の割合や、不妊に悩む方も増加傾向です。
個人差はありますが、特に女性は30代後半になると妊娠しにくくなり、流産率も上昇し、妊娠合併症の頻度も高くなります。(2)
将来子供がほしいと考えている方は妊娠しやすい年齢を踏まえてライフプランを設計することが大切です。
日本ではBMIが18.5未満のやせすぎの女性が多いといわれ、厚生労働省の調査では現在20代女性の約5人に1人が「やせすぎ」であると報告されています。(3)
やせすぎの女性が妊娠した場合、通常よりも体重が小さく産まれる「低体重児」の出産につながりやすいといわれ、日本では約10人に1人の赤ちゃんが低体重児として産まれています。
低体重で生まれると、生まれたときに低体温や低血糖になるリスクが高いことの他にも、将来、赤ちゃんが大人になったときに糖尿病や高血圧などにかかるリスクが高いといわれています。生まれてくる赤ちゃんが、生まれたときから大人になるまで健康に過ごせるためにも適正体重の維持は大切なのです。
一方で、BMIが25以上の肥満の方の場合は、妊娠した際に血糖が高くなってしまう妊娠糖尿病や、妊娠高血圧症候群などの合併症にかかるリスクがあります。これらの合併症ではお母さんだけでなく、赤ちゃんにも影響があります。
病院でプレコンセプションケアの一環として行われる主な検査は以下の通りです。
妊娠前に自分の健康状態を把握し、必要なケアを行うことは、スムーズな妊娠・出産のためにとても大切です。特に、持病の管理や服薬の見直しは、母体と赤ちゃんの健康を守るために欠かせません。
糖尿病や高血圧、甲状腺疾患などの持病がある場合、適切な治療と管理が必要です。これらの疾患は妊娠中に増悪したり、妊娠合併症を引き起こす可能性があるため、医師と相談しながら最適な状態にコントロールすることが重要です。
お薬の中には妊娠に影響したり、妊娠中は避けた方がいい薬があります。常用している薬剤がある場合は、薬剤の妊娠への影響を確認し、必要に応じて変更します。
特に降圧薬や抗てんかん薬、ホルモン治療薬などは医師の指導のもと慎重な調整が必要です。
妊娠を考えたとき、見落としがちなのが感染症のチェックです。妊娠中の感染症は、赤ちゃんの健康に影響を及ぼすことがあるため、妊活を始める前に検査を受けておくことが重要です。
妊娠中に風疹に感染すると、赤ちゃんに先天性の障害を引き起こす可能性があります。血液検査で風疹の抗体価を確認し、必要に応じて予防接種を受けます。
妊娠中は予防接種を受けられないので、実際に妊活を始める前に検査をしておくと安心です。
血液検査で行います。これらはお母さんから赤ちゃんに感染します。感染を防ぐために、早期発見と適切な管理が必要です。
不妊や流産のリスクを高める性感染症の検査を行い、必要に応じて治療を行います。
妊娠を考え始めたら、まず自分の体の状態を知ることが大切です。婦人科的な検査を受けることで、 子宮や卵巣の健康状態を確認し、妊娠に影響を与える要因がないかをチェック できます。
また、ホルモンバランスや卵巣の機能を把握することで、 妊娠のタイミングや必要な対策を考える手助けになるのです。
・経腟超音波検査:子宮や卵巣の状態を確認し、子宮筋腫や卵巣嚢腫がある場合の適切な対応を検討します。
・女性ホルモン検査:血液検査です。エストロゲン、プロゲステロン、FSH、LHなどのホルモン値を測定し、排卵や月経周期の異常を診断します。
・AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査:血液検査です。卵巣予備能を評価する検査で、卵子の数や卵巣の加齢変化を確認し、不妊リスクの把握に役立ちます。
日常生活で実践できるプレコンセプションケアには以下のようなものがあります。
| 栄養管理
バランスの取れた食事を心がけ、妊娠を希望される方は特に葉酸の摂取を意識しましょう。葉酸は胎児の神経管閉鎖障害のリスクを低減するため、妊娠する前から十分に摂取することが推奨されます。
肥満や低体重は妊娠中の合併症リスクを高めるため、健康的な体重管理が重要です。なお、適正体重の範囲はBMI値で18.5~24.9です。
BMIは体重を身長(m)で2回割って算出します。例えば体重60kgで身長158cmの方の場合は60÷1.58÷1.58=24.03と計算できます。
血行を促進し、体調を整えるために適度な運動を習慣化しましょう。
喫煙や過度な飲酒は胎児に悪影響を与えるため、妊娠前から禁煙・禁酒を心がけます。
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プレコンセプションケアは、妊娠前からの健康管理を通じて、より良い妊娠・出産のための準備を行う重要な取り組みです。適切な検査と健康管理により、妊娠のリスクを減少させ、安心して妊娠・出産を迎えられるようサポートします。妊娠を希望する方は、早めに医療機関を受診し、プレコンセプションケアを受けることをおすすめします。
参考文献
1)厚生労働省 令和3年度「出生に関する統計」の概況人口動態統計特殊報告
2)日本産婦人科学会 ARTデータブック2022
3)厚生労働省 令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要